【vol.2】矛盾と向き合い、信念を選ぶ勇気

ホテルを辞めた私は、
私は何をして生きていくのか?模索していました。
そんな中、お誘いいただいたのが、旅行会社の営業職。
スーツを着て颯爽と働く姿に、どこか“大人のかっこよさ”を感じ、
私は新たなキャリアの一歩を踏み出しました。
担当したのは、団体旅行の企画営業。
ひたすら飛び込み、飛び込み、飛び込み。電話。電話。電話。
けれど不思議と、つらさは感じませんでした。
ラグビーで培った根性と、ホテルで磨いた人間力。
その両方が、営業という仕事に活きたのです。
「伊勢神宮、最高ですよ! 行きましょ!」
「こんぴらさん、あそこは間違いないです!」
そんなテンションで、私はお客様の信頼を頂き仕事を次々に受注し、
1年目から、大きな成果を上げました。
私はすっかり、有頂天になっていました。
やがて私は、正社員から完全歩合制へと切り替え、
自分の腕ひとつで勝負することにしました。
当時は、訪日観光の“インバウンド”が注目され始めた頃。
中国からの大型団体旅行を次々と受注し、
私は、目まぐるしくも楽しい毎日を送っていました。
そんな矢先、転機が訪れます。
それは、ある中国の大口団体案件が、突如としてキャンセルされたこと。
何度連絡しても繋がらない。
確認のために北京まで飛びましたが、
現地住所はもぬけの殻。
私は、ホテルや交通機関など全予約のキャンセル対応に追われ、
結果、約700万円の損失を個人で負うことになりました。
(完全歩合制だったため、全責任は自分にあります)
貯金は底をつき、心は折れ、
気づけば、情熱も意欲もない“抜け殻のようなサラリーマン”に。
そんな時期に、ふとご縁が重なります。
交際していた女性の実家が、エステサロンだったのです。
「将来のために、少しでも業界のことを学んでおいた方がいいかもしれない」
そう思った私は、エステ業界に強い健康食品メーカーへの転職を決めました。
「売れている=正しい」ではない
転職先は、酵素ドリンクや健康食品を、
エステサロン向けに卸販売している会社でした。
業界経験はゼロでしたが、
“信じたらやりきる”という性格には自信がありました。
私はこう考えました。
「自社商品を誰よりも愛せる人間こそ、最高の営業マンだ」
そう決めた私は、思いきった行動に出ます。
──自社商品を使っての「ロングファスティング」に挑戦したのです。
結果、身体はボロボロになりました。
心も限界を迎え、心療内科で「うつ状態」と診断されました。
処方された薬は、その場でゴミ箱へ。
──それでも、私はどこか満足していました。
「これで俺は、自社商品を“体感”した営業マンになれた」
「誰よりも深く、心から信じて売ることができる」
そう信じていたのです。
しかし、ある違和感が、静かに芽生え始めます。
会社は「サロン専売品」として販売していたはずのドリンクを、
ネット上で価格崩壊させていたのです。
それを見たとき、胸がざわつきました。
「これはおかしい。…誰のための専売なのか?」
私は即座にネット流通調査に乗り出し、
違反販売をしている業者リストを作成。
上司に直談判しました。
「この店舗、取引停止にしてもいいですか?」
しかし返ってきたのは、曖昧な返答だけ。
やがて社長と直接話す機会を得て、
ようやく、販売抑制の許可が下りました。
私は一件一件、業者に電話をかけて説明しました。
ところが、表向きには「わかりました」と答えるものの、
誰も行動を改めない。
その理由は、独占禁止法。
メーカーが、販売店の販売手法を規制することはできないのです。
私はその事情も理解していました。
それでも、
「現場で信頼を築いてきたサロンの先生方を裏切ることだけはしたくない」
という想いが拭えませんでした。
そんな中、さらなる衝撃が走ります。
今度は、自社そのものがネット割引販売を開始したのです。
既存商品とほぼ同じ構成のドリンクを、
容量を減らし、価格を下げたバージョンとして直接ネット割引販売を始めました。
社長はこう言いました。
「中長期的には、ブランド価値を高める戦略だ」
私はそれを信じ、取引先に説明して回りました。
でも……言葉を重ねるたび、
胸の中に“しこり”が残っていきました。
2018年3月20日 21:00、LINEで1通のメッセージが届きます。
「この商品、¥9,000 → ¥3,980でネットに出てたけど……あれ、本物?」
私は、言葉を失いました。
「本当に守りたいものは、何か?」
その夜、悔しくて、やるせなくて、コンビニの駐車場で、ひとり泣きました。
「このままでいいのか」
「俺は、何のために営業をしているんだろう」
カーラジオから流れてきたのは、コブクロの『エール』でした。
「あなたが今日まで歩いてた この道 まちがいはないから…」
その歌詞が、まるで自分に語りかけてくるように響きました。
私は決意しました。
「自分が信じられる商品を、自分の手でつくろう」
「嘘のないものを、胸を張って届けよう」
たとえまた、傷ついたとしてもいい。
でも、大切な人に胸を張って薦められる商品だけを届けたい。
[次章予告]
第3章|本気で“商品を作る”ということ
── 大切な人を大切にしたい。その想いが、ブランドの始まりだった。